はるか昔。
私がまだ若い娘っ子だった頃の話です。
私は大学でギターサークルに入っていました。
毎年12月の定期演奏会間近になるとギターの練習のためのサークル活動が盛んになり、夜の9時頃に帰っていました。
徒歩10分弱の最寄りの駅まで一人で歩いて帰ろうと、部室のある建物から出たところで、同じサークルで同学年の男の子Mくんが自転車でやってきました。
Mくんは大学が実家から近かったので自転車で通学していました。
なんとなく話しているうちに時間も遅いので駅まで送ってくれることに。ありがたい。
サークルの話などをしていると話のネタがつきて沈黙の時間がふっと訪れました。
うーん、何か話題を振らねばと考えていると、夜空に綺麗な月が。
「あ、見て。月が綺麗だね」と何とはなしに言うと、、、
「え?えええ!?」
とおかしな反応。
その反応でMくんが何を考えているかがすぐにわかりました。
夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという有名な逸話。
そこから「月が綺麗ですね」は「愛しています」という意味にも取られると。
Mくんは文学少年。私、愛の告白をしたと思われてるっぽいぞ。してないけど!
沈黙からの愛の告白、ありそうだもんね。違うけど!
そしてMくん、めちゃくちゃ困ってるYO…。
告白してないけど振られるの確定。告白してないけど。大事なことなので2回言いました。当時すでに現在の夫と付き合っていたし。
あわあわしながら何とかごまかさねばと話題を変えようと必死で言葉を探します。
「冬の空は月が本当に綺麗に見えるね~。いや~それにしてもお腹がすいたね~」
「え?あー、えっと、ご飯食べに行く?」
なんだろう。エスパーじゃないのにご飯に誘うように言わされて嫌だなって思ってるのをびんびん感じます。断ってほしい気持ちがあふれ出てるよ。
話題を変えようとしてどつぼにはまってしまった私。
「いやいや、大丈夫大丈夫。もう時間も遅いから帰ろう」
ほっとするMくん。
そんないたたまれない時間を過ごしてやっとこさ駅の出入り口に到着。
「じゃあ、またね」
とMくんは逃げるように自転車で走り去っていきました。
なんか、ごめんなさい。そして告白してないのに振られた感じになって微妙に傷つく私。
今となってはいい思い出だなあ。
「月が綺麗ですね」という言葉の意味についてはこちらをご覧ください。
ちょっとだけ引用。
場を選ばずに使うとただの痛い人である。
わしやないかい。
おしまい